CVG: Gabe Newellとのインタビュー (07/9/28)
CVGは、現代において素晴らしいゲームを作る秘訣についてゲーム界を代表するクリエイター達に聞く、Creative Mindsと題する連載を続けている。今回は1996年にValveを興したGabe Newellが対談相手となっており、会社の構想からid Softwareが与えた影響、HLやSteamの成功に至るまで、多岐にわたる内容となっている。
平凡な開発者から業界の風雲児(powerhouse)になったと感じたのはどの時点か
Gabe Newell: (笑) その質問には、どうやって答えたらいいのかわからないね。一度だって、業界の風雲児(industry powerhouse)になったとは感じたことがないからだ。HLから得られる反応を伺うことはワクワクしたとは思うが、一般的な開発者と業界の風雲児との違いというものは、実際のところよくわからない。
会社の設立はどのように
Newell: 私はマイクロソフトに13年間在籍し、ゲーム業界の言葉で言い表すならば、Windowsの初期3リリースにおいてプロデューサーを務めたことになる。
Windows 95が出るまでに抱えていたWindowsの問題の一つに、ゲームを行うのにはよい土壌とは言えなかったというものがあった。
だからDoom sharewareが世に出た頃、私はそれをノートパソコンにインストールして各所の仕事場へと持ち出し、「おい見てくれ。PCのゲームは、ファミコンやセガのやつなんかよりもずっとすごいんだぜ」と言い回った。そして私は、エンジニアにDoomをWindowsへ移植させる決定を下したのだ。
私はJohn Carmackを呼び、そしてこう言った。「なぁ、うちらタダでこれをやってやるぜ」 そしてついにはそれが、WindowsへのDoomの移植となったのだ。
Quakeの開発中、友人であるマイクロソフトでの同僚が一人、John(Carmack)とQuakeを作るためにidへと移籍した。彼は、Carmackのプログラミングの右腕となる一人だったのだ。だから彼はマイクロソフトからidへと移籍したのだろうし、彼ともう一人のマイクロソフトの社員が私自身とMike Harringtonにこう言った。「なぁ、君らマイクロソフトで働くのをやめて、ゲーム会社を興すべきだよ」
それは1996年の夏であったに違いないが、我々はJohnと共にあれこれと話し合い、彼はこう言ったのだ。「よし、ここにQuakeのソースコードがある。これでゲームを作るんだ」
Mikeと私はお互い顔を見合わせ、こう言った。「さて。どうやら我々は、ゲーム会社を興した方が良さそうだな」 以上が、我々の起業についてだ。
当時はHLが大当たりするとは思っていなかったようだが
Newell: そうだ。Mikeと私はOSやビジネスソフトに取り組んでいたので、二人で作れる娯楽製品というものは仕事柄、オフィス環境からもので…
正直我々が平凡なゲームではない何物かを作れるかなんてわからなかったし、結局は尻尾を巻いてマイクロソフトへ逃げ帰ることになると思っていた。
我々が想像したよりもずっと早く、大きな成功を収めることができたというわけだ。
それはどれだけ幸運なものだったと考えるか
Newell: ああ、多くの幸運に恵まれた。適切な時期に適切な製品を選ぶという意味での幸運と、世界各地から素晴らしいチームとしての人材を集めることができた幸運に恵まれたということだ。
その当時、非常に才能のあるデザイナーやプログラマを見つけるのにMODコミュニティを探す、という風潮はなかった。彼らは本当に素晴らしい働きをしているのに、その誰とも連絡を取らず、協力しようとしていなかったのだ。
我々がその全員をベルビューへと連れだすことができ、結果としてHLが生まれた。
元はバラバラのアイデアを一つにまとめ上げるのはどれだけ大変だったか。デスクで睡眠をとったこともあるのか
Newell: ああ、全くその通りだったのだが、実際のところ、それはある意味楽しいものでもあった。このように熱中できるようなことは、素晴らしいことなのだ。HL2では、HLの時よりもずっと精神的に疲れるものだった。HLでのそれは、構築するというものだけからきているものだったからだ。
HL2では我々のソースコードがインターネット上に公開されたり、パブリッシャとの訴訟があったり…
実際にゲーム販売をしてくれることになる者達に対して行う大きな訴訟の真っ直中に置かれるのは、不愉快なことこの上ない。
期待したほどSourceエンジンは開発者に採用されていないようだが
Newell: 我々の望みとしては、人々によいツール群を提供することだ。それによってHLではCSやDoDが出てきた。こういった開発には時間を要するものなのだ。
Sourceでは、PortalやLeft 4 Dead、そしてArkane製のプロジェクト(編注:The Crossing)があるので、いずれSourceでも非常に興味深く影響力のあるゲームを目にする、似たような道を辿るのだと思う。
CSのような大型ゲームを新エンジンへ移植することにどれほどの重要性が
Newell: 我々はそれを非常に重要なことだと考える。非SourceのCSコミュニティやCS:Sourceのコミュニティは、それぞれ単独でどれよりも巨大なものとなっている。
人々がそういったゲームをプレイしたいと思う限り、我々はそれらを支援していくつもりだし、そういったゲーム様式が人気である限り、我々の新技術にそれらを導入していくつもりだ。
我々はまた、マルチプレイ以外にも導入しているので、我々がマルチコア版のSourceエンジンをリリースすれば、HL2の初作をプレイする人にとってもその恩恵に授かることができるようになる。
最近のPC向け大企業はエンジンやそのライセンスに多大な投資を行っているが、それは正しいことだと考えるか
Newell: いや、それは少しばかり違うのではないかと思う。現時点で最も巨大なPC向け企業は、World of Warcraftを作っているBlizzardだ。900万の販売を誇り、月にその顧客からそれぞれ15ドルずつ得ているので、最も大きいと言えるのはお分かりだろうか。
彼らはエンジンのライセンスを行うという形はとっていない。大きく異なる戦略をとっていると私は考える。
一人称視点アクションの市場では、エンジンのライセンスを行うという慣例が強く残っている。ただそれが唯一の実現可能な戦略である、というわけではまったくない。
多くのパブリッシャやユーザを抱えるようになったSteamをどう進化させるのか
Newell:我々は昨年、ゲーム開発者やパブリッシャ向けのツールやユーティリティを作成するのに費やした。大衆市場製品の追跡やゲームを週末無料(free weekend)にした際の販売推移、それをリアルタイムで監視できるようにすることなど…
私はそれが非常に成功したと思っているし、こういったものはゲーム開発者としての我々が欲していたタイプのものだし、他のゲームパブリッシャや開発者も追随していることはうれしく思う。
我々の注力先は、ゲーム開発者への価値を高めることではなく、ゲームプレイヤーへ提供することへの移行を始めることである。その手始めが、ゲーム面での交流を容易にするコミュニティサービスというわけなのだ。
目標としてはそれを出発点にすることであり、少しばかり試行を重ね…それからゲームプレイヤーにとって、もっと使いやすいSteamクライアントにすべく、他の機能一式がある。
id Softwareにはどれくらい影響されたか
Newell: 非常に強く影響された。人々は、ユーザインタフェースがどれだけ単純化されているのかを忘れていると思う。
idのゲームが出る前、PCのインタフェースは自分のキーボード上に特別な設定を割り当てる必要があった。Doomはライトを消すようなものであり、実際にその一部を使うだけですべての操作を合理化し、その方法でもゲームをよりよくすることができるのだ。
これによりMODコミュニティが開拓され、他の人々を助ける意欲がわき、そしてValveに信頼を置くようになる。我々がこのような方法で始めることになった、まさに受け継いだ資産と言えるものである。なぜならそれは、idの人間の努力の賜物によるものであるからだ。
彼らは我々に、非常に大きな影響を与えたと思う。
また、だれかidやLooking Glassの系図を作ってみるべきだと思う。そうすれば、この2つのどちらにも属さない業界の人間はいないことがわかるはずだ。
Valveには多くのLooking Glassの人間が所属している。彼らのLooking Glassでの体験や決断は、今日においても数多く通用するのは驚くべきことだ。
Bioshockはまさに、その系図に属する人間が業界に与えた影響を目の当たりにできる、最近の一例なのだ。
ところで、もうBioshockはプレイしたのか
Newell: Orange Boxが完成するまで誰もプレイすることがないよう、Bioshockを禁止せねばならなかった。Bioshockをプレイできるよう製品を手に入れることが、会社としての我々自身にとっての報酬なのだ。だから私はまだ、プレイする機会には恵まれていない。非常に楽しみにしている。
エピソード形式はどれほど効果的であったと考えるか
Newell: 技術を進化させるための我々の能力や売上といった点から言えば、効果的であった。我々は以前よりも早く、数多くの技術をユーザへと届けることが可能になった。そうでなければ、今でも我々はHL2規模の画一的な製品の出荷を待ち続けていたことだろう。
我々が本当にやりたいことと言うと、まず、いくつかの例を挙げることだ。EP1。そのプレイ時間および開発期間について。EP2、Portal、TF2。そして、三部作の3つめ。
それから、コミュニティとじっくり話し合う。「オーケー、それじゃ君達は何がいいんだい。もっとエピソードをやって欲しいかい。期間を短縮し我々に何が可能なのかを見極め、大規模の画一的な製品に戻って欲しいのかい」
我々はこの3つの例を取り上げ、次に何をして欲しいのか、ゲーマー達とじっくり話し合いたいのだ。
私はまた、この試みを行ったSam & Maxのような者達とも、何を見いだしたのか、ある程度の時間を過ごしたいと思う。そしてMMOという形でエピソードを提供していると考えることのできる、World of Warcraftを開発している(WoWのリードデザイナーである)Rob Pardoと話し合う。
というとEP3を出した後、再考する(come to a crossroads)ということか
Newell: そういうことだ。
360とPS3のエンジンが完成した今、EP3は比較的早く出せるのか
Newell: 我々はいつも間違うため、スケジュールに関して何も言うつもりはない。私はむしろ早めに間違うよりも、待ってから間違うことを選ぶだろう(笑)
HLに終わりはあるのか。このシリーズをうまく終わらせるアイデアはあるのか
Newell: さて、そこには我々が終焉すると承知している、特定のストーリーやキャラクタの一生(arc)または筋書きがある。我々にはその穴を埋める引き出し(bible)がたくさんあるし、伝えるべき興味深いストーリーもたくさんある。
例えばPortalは、当初我々がHL界で伝えようとしていた時代よりも、ずっと以前のAperture Scienceについての物事を持ち出してきている。
我々は間違いなく他の世界での出来事にも取り組みたいと思っている。なぜならいつでもValveの人間を二人集めれば、物語を伝えプレイさせたいと思う5つのゲームのアイデアと13の世界を思いつくからだ。だからValveには、HLでやり残していることはまだたくさんある。
EP3を出す際には、どうやってOrange Boxを上回る価値を付加するつもりか
Newell: 我々は常にゲーマーに対し、お得感を提供する試みを行っている。CSなどを見ればわかるように、我々はすでにリリースから40ほどのアップデートを繰り返している。
そうすることにより、長い目で見た際の製品売上への貢献やユーザへの義理を果たすのに役立つと考える。なので、我々は何らかの方法を見つけ出すことになるだろうと思っている。
最後に、Steamの成功は業界にとって何を意味するのか
Newell: うーん、それは私が思うに、ユーザと密になり価値を高める方法を学ぶことを意味するのではないのだろうか。例えば我々にとっては、新規顧客の獲得方法という問題になる。
新規顧客獲得方法の一つに、広告業者を使ってテレビコマーシャルを打つというものがあるが、別の方法に、既存ユーザに広めてもらうというものがある。「やあ、君はこのゲームが大好きなのかい。ここにゲストパスがあるんだけど、これを君の友人に渡せるんだ。君にとってためになることができるってことさ」とすれば、うまくゆけば新規顧客を得られることになる。
新規顧客の獲得に既存のユーザを使って利点を与えることは、広告業者に金を払うよりも安価な方法なのだ。このことが我々にとって、よりよい仕事が行えるようになる類のものであることを望んでいる。


